カメラを持って息をひそめ、
かすかな気配に感覚を研ぎ澄ます。

こんなに身近で、色彩美・造形美を兼ね備えた連中が
日常というドラマを彼らなりのやり方で紡いでいる。

その世界を覗き見たい。

彼らの感覚器は私たちのそれと違う。
頭部に突き出た触角で草いきれを感じ、
規則正しく敷き詰められた複眼で木漏れ日を細かく砕く。
脚の付け根の鼓膜を震わせるのは、
求愛の旋律か、捕食者の忍び足か。

私は、そんな彼らをレンズの目で知覚し、
シャッターのまばたきで記憶する生き物となる。
視界はブラックアウトと同時に脳裡の光景に切り替わり、
そのイメージは生々しい生命の印象となって焼き付く。
|以下、展示のステイトメント|
このたびは、写真展「Small Wildlife -小さな野性-」に足を運んでいた だき、ありがとうございます。
私が初めて一眼レフカメラを手にした頃、最初にレンズが向いたのは小さ な生き物たちの住む世界でした。その世界を覗き見たときの感覚は、私が 少年時代に確かに感じていた懐かしいものでした。カメラを手にすること で呼び覚まされた当時の純粋な好奇心を、かつての、そして現役の昆虫少 年たちと共有できればという思いから、今回の写真展の開催に至りました。 
さらに言えば、私たちの生活が自然の猛威やテクノロジーの脅威と隣り合 わせであることに改めて自覚的になったいま、サイエンスの眼をもって身 近な自然を記述することに大きな意義があるような気がしてなりません。 小さな生き物たちの住む世界に初めて眼を向けたきっかけは、環境保護の 問題意識でもなければ資源としての利用価値などでもなく、単純で純粋な 好奇心に他ならなかったはずです。そしてその対象は、彼らのむき出しの 野性そのものでした。ときに壮大なスペクタクルさえみせてくれるその小 さな野性は、私たちを魅了すると同時に、自然の中で生きていかなければ ならない私たちに向けた大きな示唆を含んでいるようにも思えるのです。
私たちの生活のすぐそばにある、小さな生き物たちの住む世界。ただただ そこに生きている彼らの野性。私が感じた美しさ、驚き、畏怖を少しでも 伝えることができれば…。 
小さな隣人たちは、そんな写真家の思惑とはまったく無関係に、今日も野性に満ちた日常を繰り広げています。  
2012年7月 熊谷 毅
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